お正月にNHKアニメ「火の鳥」が再放送するのにあたって
昔の記事を編集再投稿します!
手塚治虫の漫画「火の鳥」は言わずと知れた名作、
読んだ事が無い人は絵が古いと避けずに、ぜひ一度読んでみてほしい。
手塚治虫のライフワーク
火の鳥は漫画家活動初期の1954年から晩年1986年まで描き続けられた
「漫画の神様」手塚治虫のライフワーク的作品であり
手塚治虫が漫画で描きたかった最大のテーマ「生命」をめぐる物語です。
不死鳥である火の鳥を通して人類の歴史を俯瞰します。
1954年「漫画少年」で連載された最初の「黎明編」は
雑誌が1年ほどで廃刊となったため未完となり、
少女雑誌の「少女クラブ」で「エジプト編」「ギリシャ編」「ローマ編」を連載後、
1967年、白土三平ら劇画雑誌の「ガロ」に対抗して
自身が立ち上げた「COM」の看板作品として
新たに「黎明編」から描き直し、複数の作品を連載。
COM休刊後1976年からは「マンガ少年」で「望郷編」から「異形編」まで
1986年に「野生時代」で「太陽編」を連載しました。
物語の根底には仏教思想である輪廻転生があります。
一種のネタバレになってしまいますが、
COM版以降、最初の編が一番古い時代を描いた黎明編。
二作目が一番遠い未来編を描いていますが、
未来編のラストは黎明編の冒頭に繋がるというもので
ここで既に火の鳥の物語は一つの巨大な輪廻であることを示しています。
その後はヤマト編、宇宙編、鳳凰編、復活編、羽衣編、
望郷編、乱世編、生命編、異形編と過去と未来が交互に展開され
徐々に現代に近づいていく・・・非常に壮大な歴史大河なのです!
最後の作品となった太陽編では一つの物語で
7世紀の過去と21世紀の近未来と交互に描いています。
結局現代が描けなかったので未完の作品と言われていますが、
執筆されなかった構想段階の作品が3つあります。
大地編、再生編、現代編です。
残された構想
大地編
大地編はシノプシスが存在し、太陽編の正式な続編の可能性が高いです。
物語は昭和、日中戦争の時代で
中国大陸に伝説の仙鳥を探索しに行くエピソードでした。
もともと舞台劇用に描き起こされましたが、
未来的なもの(舞台劇「火の鳥」)を要求されたためにボツになったと言われており、
1989年の春から野生時代で連載予定でしたが、病気のため連載されませんでした。
編集部が「シュマリ」の続編を希望していたことから
日中戦争ではなく、シュマリに合わせて
「幕末~明治維新」の時代設定になる予定だったとも言われています。
昭和は明治と地続きの時代なので、近代史をまとめて描いたかもしれませんね。
直近の過去の話が異形編の室町時代なので、時代が飛び過ぎている感もありますが、
病床で執筆されたこの頃には迫りくる死期を察知し、時代設定を速めた可能性が高いです。
手塚プロによるとシノプシスがある大地編は
手塚と関係の深い人であれば制作を許可する可能性があるとの事です。
(2021年に小説化されました)
再生編
再生編はアトム編とも言われ、
アトムとはもちろん鉄腕アトムの事で、時代設定は21世紀(2003年頃)です。
太陽編も21世紀が舞台であるため再生編と関わりが大きい。
アトムの結末も火の鳥で描かれ、
最終的にアトムも火の鳥と言う作品に内包される予定でした。
ここで重要なのはロボットであるアトムを作ったお茶の水博士の存在で
お茶の水博士はその大きな鼻からも分かるように
火の鳥全編で重要な存在である猿田彦や我王の子孫であり、
太陽編に反体制派のボス「おやじ」として登場する
猿田は連載時お茶の水博士の弟という設定でした。
この設定は単行本化の時点で無かったことにされましたが、
描かれる予定だった再生編への伏線だったのでしょう。
再生編ではアトムのみならずブラック・ジャックや三つ目も登場し
手塚キャラオールキャストで火の鳥の総決算となり、
長編漫画としてはここで火の鳥の実質的な最終作となるはずでした。
この再生編について「YAWARA!」「20世紀少年」で知られる
浦沢直樹氏が手塚プロダクションに描きたいと頼み込みましたが、
断れ、代わりに「PLUTO」を描くことになったという逸話があります。
浦沢直樹は火の鳥のオマージュともいえる「BILLY BAT」を執筆中です。
現代編
最後に現代編。
私はつい最近まで再生編がラストと思っていましたが、
最後のピースが残されていました。
手塚治虫は「現在」の解釈を自分の体から魂が離れる時としていました。
死の直前に一コマの漫画を描き、
これを「現代編」として火の鳥の死と誕生を同時に描き
そこで本当のラストが描かれるはずでした。
別のインタビューでは最後は原稿を書いている自分の部屋で終わりたいとも語っており、
最後の最後でメタというのもいかにも手塚らしいと思います。
この現代編を裏付ける作品が実は残されていました。
「火の鳥 休憩編」と言われ、雑誌COMで羽衣編と望郷編の間で発表された
「休憩 INTERMISSION 火の鳥 またはなぜ門や柿の木の記憶が宇宙エネルギーの進化と関係あるか」というタイトルの6頁のエッセイマンガです。
後にラスト3頁が削られ『休憩 INTERMISSION 火の鳥 というタイトルでなくともよいというわけ』と改題され、文章もすべて書きなおされた上でマンガ少年で再発表されました。
半分も削るのは大胆な修正ですが、まさにこの削られた3頁に現代編の伏線が張られ
火の鳥の正体について核心を突く内容が描かれています。
究極のネタバレになるので直接的に書くことは避けますが、
その正体を知れば「漫画の神様」が本当の意味で神だと知ることになります。
この休憩編は長らく単行本未収録でしたが、
ナツメ社から出ている火の鳥公式ガイドブックに収録されており一見の価値あり!
火の鳥の死と再生
晩年、手塚は胃がんを患い入院。
入院中も執筆を続け、
こん睡状態に陥った後も意識が回復すると「鉛筆をくれ」と言い
握らせると意識が無くなりを繰り返したと言います。
最後の言葉は「頼むから仕事をさせてくれ」だったというのは有名な話です。
もしかすると現代編を描こうとしたのかもしれません。
手塚本人は最後まで病名を知らされていませんでした。
一方で遺作の一つ「ネオ・ファウスト」では主要な人物が胃癌にかかり、
医者や周りは気遣って胃癌であることを伝えないが
本人は胃癌であることを知っていて死亡するという内容が描かれました。
火の鳥は未完扱いですが、
最終的に最後となってしまった太陽編だけが
過去と未来の両方を交互に見せる構造を取っている事。
1980年公開の劇場作品「火の鳥2772 愛のコスモゾーン」や
病院で執筆され死の前日に公演された
2001年を舞台にした舞台劇「火の鳥」でも一つの結末が描かれています。
医者でもある手塚は自分の死期を悟っていたのかもしれません。
まとめ
現代編の構想を知ると、手塚治虫が漫画にかけた人生やその生き様、
ストーリーテラーとしての偉大さに改めてゾクゾクする思いが湧きます。
2014年、仕事場の机の開かずの引き出しが空き、
未発表のイラストや原稿が
娘のるみ子さんによって旧Twitter上で公開され、話題になりましたが、
いつか現代編の1ページが発掘されることがあるかもしれません
一方で、謎は謎のままである方が作品に神秘性を与えるとも感じます。
未完であること自体が、火の鳥という作品の完成形なのかもしれません。
これからも定期的に火の鳥を読み返していこうと思います。
帰郷の際には、時間があれば宝塚にある手塚治虫記念館にも足を運んでみたいです。
作品の中では鳳凰編が特にお気に入りです。
原作が好きなので、角川映画版のアニメには少し納得できない部分もありましたが、
渡辺典子さんが歌う主題歌は、火の鳥の世界観を見事に表現していてとても気に入っています。
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