漫画作業①アイデア

漫画を描く時の手順としてまずアイデアがあって、
そこからストーリーを考えてシナリオを書く、
シナリオができると実際にコマを割る「ネーム」という段階に入り、
下書き、清書(ペン入れ)、仕上げ(ホワイト・トーン)というのが基本的な流れです。

作業的にはシナリオを書かずにネームから始める人もいれば
下書き無しでいきなり原稿に清書するという天才もいる。
しかし、どんな場合にせよ最初に漠然としたものでも
アイデアというのがなければ描き始めることはできません。
そして漫画の面白さは
ほぼ最初のアイデア(発想)が握っていると言っても過言ではありません。
手塚治虫が

アイデアだけはバーゲンセールするほどある

と語ったように
アイデアが多いほどマンガ家にとっては大きな武器となります。

大友以降、漫画の作画技術のハードルが上がり、
最近の新人作家は絵が上手い人が多いですが、
その反面、このアイデア・発想力が蔑ろにされている嫌いがあります。
このアイデアの部分は一般的な技術論ではなく、
個人の思いつきの才能が重要になってくる部分ではありますが、
画力と同じでこれも訓練を重ねることで磨くことができます。

いざ「ひらめいた!これはすごいアイデアだ!」と思っても
残念なことに、よくよく調べると先に誰かにやられていることが大半です。
自分自身ほんとに何度も経験しました(;^ω^)
漫画は先にやったもん勝ちの世界ですから、これを悔やんでも後の祭りです。

個性なんてあると思うな!オリジナリティなど存在しない!

と大学時代、富野監督の講義で散々言われましたが本当にそのとおりなのです。
その程度の浅いところで躓くようじゃまだまだ思慮が足りないのです。
じゃあどのようにオリジナリティのあるアイデアを生み出すのかというと
これは知識を深め経験を広めていく他ありません。

あの手塚治虫でもスポ根が描けなかったように
基本としてスポーツを知らずにスポーツ漫画は描けません。
アイデアの前に基礎教養はもちろんですが、
常日頃からいろいろな情報のインプットが大事になってきます。
知識アイデアの宝庫です。
大学を出なくても漫画家にはなれるが、無教養ではなれないというのはこの点です。
最近のクリエイター志望者は手っ取り早く、
漫画家志望は漫画、アニメーター志望はアニメを見て知識を得たつもりになってしまいますが、
こうして作られたものは「どこかで見た作品」になりがちで
オリジナリティに乏しい模倣品でしかなく、
所謂二番煎じ知識の層として薄いものとなりがちです。

同ジャンルではなく映画、小説、演劇、音楽など
できるだけ他ジャンルの知識を深める方が良いでしょう。
スポーツやアウトドアなど漫画以外の特定の趣味があると強みになります。

知識だけではなく経験を積み重ねる事も重要です。
家庭環境、恋愛、学生時代の部活や受験、
社会人経験などプライベートな人生経験が豊富というのも強みです。
世の中に溢れた誰でも得ることのできる知識と比べ
人生経験は人それぞれなので一番個性を出しやすいですが、
これを出してダメならホントに終わりという諸刃の剣のような所があります。
つまり漫画家志望なら部屋に篭って、
頭でっかちに小手先の知識だけ吸収するのではなく、
実際に自分の足で外に出向いて、目で見て手で触る
「経験値」を日頃から常に高めなければならないということです。

手塚治虫は医大生、医学博士号という経験と資格を活かして
「ブラック・ジャック」を描きスランプ時代を脱しています。
あのアイデアマンでも自らの資格や経験を持ち出さなければならなかったのですから
当時の手塚先生がどれほど追い詰められたのか
そして漫画界の厳しさも伺い知ることができますが、
人にはない経験、資格も持っておくことがどれほど助けになるか物語っていると思います。

ただ当たり前のことを書いても漫画である必要性がないので、
教材向けの歴史モノなど史実に基づいた作品でない限りは
ファンタジーにせよ、バトル物にせよ
インプットした情報をそのまま出すのではなく、
意外性を付いたアイデアが欲しいところです。
アイデアとはとどのつまり知識や経験の組み合わせです。
知識×経験→アイデア
単体の知識や経験は個人のオリジナリティとはなりませんが、
その組み合わせのチョイスや配分によって独自のオリジナリティが生まれます。

このアウトプットの作業はただ情報を詰め込むインプットよりも数段高度で、
大体の漫画家はいつもここで頭を悩ませています。
この訓練としては一人連想ゲームがあります。
その昔「マジカル頭脳パワー!!」という番組で
マジカルバナナというのが流行りましたがあれです。
例えばウサギという言葉があれば
「長い耳」「白い」「赤目」という外見的特徴や
「跳躍力」「性欲が強い」という生態、
「月」「餅つき」「干支」「鳥取県(因幡のうさぎ)」など神話や伝承など
たくさんの関連イメージが思い浮かびますが、
この数をどんどん増やし、
また分岐した言葉のそれぞれにも、
例えば「跳躍力」は「カエル」などとさらに連想を膨らませることで
より発想力を磨くことができます。
こうして砂漠(鳥取砂丘からの連想)が舞台のうさ耳キャラの冒険物など
一見結びつかない要素が結びついたりします。

実際に自分自身が画塾時代に
精華大学ストーリーマンガコースの試験勉強としてやっていたのは
A群、B群、C群というカテゴリにそれぞれ三つずつ言葉があり、
それぞれに一つずつ選んでそのテーマが出てくる話を考えて絵コンテを書くというものです。
上記の連想ゲームができているとカテゴリ別の全く関連性のない言葉だったものが
ひとつのラインで繋がって、独特なストーリー展開が思い浮かんできます。
こうした練習方法は漫画だけでなく脚本シナリオの世界でも有効です。

昔の漫画家は一人で様々なジャンル作品を描いていましたが、
昨今の漫画家は一作長期連載が多いので
いろいろ触手を伸ばすよりも「ここだけは誰にも負けないぞ」という知識を
一点集中で極める方が即効性がある攻め方かもしれませんが、
そうして作る作品は一時期のブームに乗って受けたとしても
ブームが下火になればそれで終わりなので連載も長く持ちません。
やはり知識経験は豊富な方が良いと言わざるを得ません。

いろんな事に興味を持てれば一番いいのですが、漫画家も一人の人間です。
時間も限られる中で知識を習得するのも大変です。
「あしたのジョー」のちばてつや先生は
当初ボクシングを知りませんでしたが、見事に描ききりました。
これは漫画原作者編集者の存在が
足りない知識や経験を補う事になったのです。
基本的にスポーツを知らずにスポーツ漫画は描けないと書きましたが、
これも一長一短があって、スポーツ経験による固定概念がないからこそ
思い切った発想ができるという考えもあるにはあります。

週刊連載などで読み捨てられてきた
勢いで押し切るタイプの漫画では切り捨てられてきた要素ですが、
雑誌ではなく単行本が売れる今の時代は
物語や設定の整合性が重視されるようになってきたので
一人ではなく複数人で知識を共有し、設定を管理するという手も
作品の内容によっては必要になってきたと言えるかもしれません。

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