現在、漫画の新たなブームの源流となっているのがネットの世界です。
2015年にアニメ化された『ワンパンマン』は
元々、原作者のONEが
2ちゃんねる系の漫画投稿サイト新都社で発表していた作品です。
当サイトでウェブ漫画として話題になっていたところ
『アイシールド21』で知られる漫画家村田雄介の目にとまり、
直接ONEにリメイクを持ちかけ、
偶然にもその頃、集英社で準備されていた漫画サイト
となりのヤングジャンプの看板作品としてウェブ上で連載が決まり、
テレビアニメ化まで進んだまさに現代のジャパニーズドリーム!
『東京喰種』の石田スイ、『賭ケグルイ』の河本ほむら
『小林さんちのメイドラゴン』のクール教信者も新都社出身であり、
ウェブ漫画出身の作家は増えつつあります。
名実共に週刊漫画誌の一つの歴史の終わりを象徴する出来事となりました。
こちら葛飾区亀有公園前派出所 200 (ジャンプコミックスDIGITAL)
ゼロ年代に入り、出版業界が落ち込む中で
コミケなどの同人誌即売会やウェブコミックなど
出版業界以外に目を向けると描き手の幅は広がって行きました。
プロ漫画家への道というと作者自身が編集部に持込したり、
マンガ賞へ投稿するというのが基本でしたが、
最近では同人誌即売会などに出版社が足を運び、
出張編集部を企画したり、
編集自らがウェブサイトを巡って作家を探し、
スカウトする事も多くなっています。
もちろん積極的に投稿持ち込みを行う漫画家志望者は大勢いますが、
原稿料の増額交渉、作品の二次使用権の無断許可
編集部の取材資料の誤り、ネームの無断改変など数々のトラブルの末、
佐藤秀峰が『ブラックジャックによろしく』の連載を
講談社のモーニングから小学館ビックコミックスピリッツに移籍し、
以降ウェブマンガ中心の活動を宣言した事から
『金色のガッシュ!!』の雷句誠も数々のトラブルの末、
原稿返却要求の際に
カラー原稿5枚の紛失が確定したため小学館を提訴するなど、
漫画家と出版社のトラブルがSNS時代になり相次いで続出したことは
一定規模の漫画家志望者の出版社離れを引き起こした可能性があります。
また、出版社にとっても既にネットや同人で
一定の評価を得ている作品・作家は不人気による打ち切りなどの
新人作家としてのリスクを回避しやすい利点がありました。
そしてテン年代に入ると
スマホやタブレットなど電子書籍の勃興があり、
出版社自身もネットに参入していきます。
スクウェア・エニックスは他に先駆けて
2008年に「ガンガンONLINE」を創刊しましたが、
出版社による漫画サイトの運営は乗り遅れている状態でした。
契機は2011年の東日本大震災です。
震災により東北地方の流通が止まり、
被災地で一冊の週刊少年ジャンプ最新号が回し読みされる美談が生まれ、
集英社は流通混乱に配慮してヤフージャパンの特設サイトで無料ウェブ公開を決定、
他誌も追随し無料公開に踏み切りました。
翌年の2012年には小学館「裏サンデー」、集英社「となりのヤングジャンプ」、
講談社の「マガジン・ラボ」など
出版各社の漫画サイトのオープンラッシュが起こります。
漫画雑誌の売り上げが低迷する中でも
単行本の売上自体はほぼ横ばいに推移していることから、
新人作家は雑誌連載ではなく
無料公開のウェブサイトで連載を行い、その後の人気により単行本化、
そしてアニメ化という新しい流れが出てきています。
先述の「ワンパンマン」はまさにこの流れにうまく乗ったと言えます。
また、集英社の「少年ジャンプ+」、小学館の「マンガワン」など
スマホに対応した漫画アプリも誕生し、
NHN JAPANの「comico」、DeNAの「マンガボックス」などIT企業も参入、
縦スクロールやフルカラーなど従来の漫画にとらわれない
電子書籍ならではの新たな形態を生み出し、
デジタルツールの発達も手伝って
ウェブ漫画は新たな文化として独自の広がりを見せています。
かつて出版社は作家をプロデュースし、ムーブメントを作ってきましたが、
既にウェブ上で評価されている作品や作家を引き抜くという事は、
まさにネットの追認です。
これは編集者を介さずに漫画家自身が直接作品を発信し、読者が評価する
という新しい形の誕生でした。
ある意味ではジャンプのアンケート至上主義の発展系とも思えますが、
必ずしもウェブ漫画の人気がそのまま
商業作品としての価値に結びつくわけではありません。
2018年の漫画村問題を見ればわかるとおり、
無料で読めるウェブ漫画からどうやって顧客がお金を払うコンテンツにするか
という新しい問題が発生しており、
こうした作品に付加価値をつけることが出版社の命題となりそうです。
また、ウェブマンガという新しい形態の開拓の中で、
単行本印税のみで原稿料を出さないという事例や
逆にウェブ掲載で原稿料のみ印税なしという事例もあるようで
出版社、作家双方に納得のいく制作環境の整備も必要になるでしょう。
現在漫画界は変革期の真っ只中にいると言えます。
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