『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』

レンタルなんてもってのほか、DVDもBlu-rayもまだ出てないのに、
いきなりアマゾンプライムで公開され、
プライム会員なら今すぐにでも観れちゃう状態となったので、
そろそろ3月と6月に計二回鑑賞した「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」の感想…
いや、エヴァシリーズ完結という事でエヴァそのものの総括、
今後のサブカル、庵野秀明論についても語ってみようと思います。

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エヴァシリーズ完結。

エヴァンゲリオンは言わずと知れたアニメ作品なので、
ここで一から説明する事は避けようと思います。
庵野秀明監督を中心にアニメスタジオGAINAXが手掛けた作品ですが、
新劇場版からは庵野監督の個人スタジオと言えるスタジオカラーが製作しています。
エヴァは1995年ー1996年の最初のアニメシリーズから完結しない事で有名でした。
それはそれで賛否あったのですが、今回ようやくシリーズ完結となりました。
それは序・破・Q(序破急)と続いてきたヱヴァンゲリヲン新劇場版の完結であり、
1995年から四半世紀に渡って続いた全てのエヴァンゲリオンの最終回です。
その結末自体にもいろいろな意見はありますが、
まずはちゃんと終わった事を称えるべきだと思います。

完結までに庵野監督にはいろいろな苦難がありました。
ネットの中傷からの自殺未遂、度重なる鬱症状、
スタジオカラーの立ち上げと古巣ガイナックスとの裁判、友人たちとの決別。
昨年はガイナックス社長が強制わいせつで逮捕される事件もありました。
そして全世界を襲った新型コロナウイルスによって
制作スケジュールや公開の延期もありました。
その中にあってもシリーズ最大の興行収益を達成できた事は映画の評価だけでなく、
エヴァというコンテンツそのものが支持され続けた証拠でしょう。

庵野監督の軌跡

庵野監督の経歴として1984年公開の「風の谷のナウシカ」巨神兵の原画から始まり、
1990年、宮崎駿の没プロット(後に「天空の城ラピュタ」に転用)を基にした
「ふしぎの海のナディア」でテレビシリーズ初監督
2012年、ナウシカのスピンオフ作品である「巨神兵東京に現わる」を企画し、
自身が監督したヱヴァンゲリヲン新劇場版Qで同時公開
2013年には「風立ちぬ」声優デビューを果たすなど、
宮崎駿作品と縁が深く、いわゆる師弟関係にあり、
ポスト宮崎との呼び声も高いですが、やはりその作家性には大きな違いがあります。

庵野秀明監督の世代はオタク第一世代と呼ばれており、
幼少の頃からアニメや特撮が身の回りに溢れる時代を過ごしています。
宮崎監督世代はアニメーターがアニメを見て勉強したり、
影響を受ける事は良い事とは考えず、
自分自身の目で見て手で触ったリアルを大切にしますが、
オタク第一世代である庵野監督はその抵抗がないという特徴があります。

庵野監督は大阪芸大在学中に出会った仲間たちと
イベント用の自主映画同人団体「DAICON FILM」を作り、
このアニメや特撮文化で育った学生クリエイター集団がGAINAXの前身となります。
なので初期ガイナックス作品は既存作品のパロディーに溢れています。
第一作目である劇場作品「王立宇宙軍~オネアミスの翼~」こそ
徹底的に作り込まれたオリジナリティ溢れるSF映画ではありましたが、
知る人ぞ知るなぽっと出の新興スタジオに注目が集まらず、興行的に失敗。
制作費回収のために元々の支持者であったオタク向け作品を量産します。

庵野監督アニメ初監督作品でもあるOVA作品「トップをねらえ!」
「エースをねらえ」と「トップガン」を組み合わせた
タイトルからも読み取れるようにストレートなパロディで、
オタク同士の内輪的に楽しめるギミックが満載でした。
一部にマニアックなファンを作れましたがまだ大衆受けとはいきません。

その後NHKアニメ「ふしぎの海のナディア」を制作した経験もあって、
ガイナックスも徐々に大衆向けにシフトしていきます。
「新世紀エヴァンゲリオン」は知識あるオタクは「伝説巨神イデオン」の
もじりタイトルだと思うかもしれませんが少々変化球です。
ウルトラマンやVガンダム、マジンガーZ、デビルマンなどをパロディしていますが、
あくまで裏モチーフに徹して
聖書をテーマにした謎が謎を呼ぶ展開によって視聴者を魅了し、
主人公の悩みや葛藤など精神面の内面まで深く描いたことで
主人公と同年代の青少年にも支持を集めました。
結果的にヤマト、ガンダムに次ぐ第三次アニメブームを巻き起こし、
テンポの良いセンスあるカット割りや、丁寧なメカ作画など、
庵野秀明も日本を代表する映像作家となっていきました。

エヴァの旧劇場版が終わって以降、
庵野監督はしばらくアニメから離れ実写映画を監督しますが、
旧劇場版から10年の歳月を経て
2006年にガイナックスを退社しスタジオカラーを立ち上げ、
エヴァンゲリオンを作り直す決意を新たにします。

シン・シリーズ~パロディからの脱却~


2014年公開の「シン・ゴジラ」からは一連のシン・シリーズが始まりますが、
今回の「シン・エヴァンゲリオン」も含めてパロディからの脱却
作品のリビルド(再構築)に努めています。
公開を控える「シン・ウルトラマン」「シン・仮面ライダー」の性格を考えても
ある決意を持ってタイトルに「シン」を付けていることは明らかです。

そもそもこのリビルドがヱヴァンゲリヲン新劇場版のテーマだったはずですが、
エヴァブーム最中の旧劇場版以降と同様、
Q公開以降、庵野監督は再び深い長い鬱状態に入ってしまいます。
この背景には監督としてのプレッシャーのみならず、
身内であったはずのガイナックスとの訴訟もあったでしょう。
そうした中で体調を気にかけた宮崎駿からの声優オファーや、
東宝「ゴジラ」、円谷「ウルトラマン」、東映「仮面ライダー」の企画が動き始めます。

新劇場版の流れで見ると
序(2006年)破(2008年)Q(2012年)は展開は違えど
時系列的に旧シリーズに元ネタを見ることが出来ますが
尺の問題でQで描き切れなかった部分が含まれているとはいえ
今作は全くの新作といえるもので、
旧劇場版で作られる予定だった完全新作の劇場版がようやく日の目を見たと言えます。
その点においても「シン(新)」であったと言えますが、
エヴァをどう終わらせて、その後は何をするのか?
この答えが「シン・ゴジラ」の成功によって導かれていったのです。
パロディでは無いホンモノを目指す「シン(真)」・シリーズ。
エヴァシリーズは完結しましたが、シン・シリーズはまだまだこれからなのです。

アニメから実写へ

特徴的な庵野爆発など、庵野作品は特撮の影響が色濃く、
大友克洋が「漫画に映像を持ち込んだ」のなら
庵野秀明はアニメに特撮を持ち込んだ作家だと言えます。

庵野監督はそのカット割りの元になったと言われる岡本喜八
独特なアングルの構図の手本となった実相寺昭雄など
実写映画界からも強い影響を受けています。
庵野監督も過去何度も実写作品も挑戦していますが、
ヒット作と言える作品には恵まれていませんでした。
押井守監督のようにアニメも実写もやる監督は他にも存在しますが、
この両方でヒットを飛ばす人は稀です。

しかし、「シン・ゴジラ」でようやく実写でのヒット作を生み出し、
本作ではアニメ制作の現場で培われた技術がいかんなく発揮され、
アニメーション技術の一つであるフルCGで描かれるゴジラや
徹底的に役者に演技をさせない計算されつくした絵作りによって
今度は実写特撮にアニメを持ち込むことに成功したのです。
今回のシンエヴァでもシンゴジラで導入したプリヴィズを多用し、
実際の役者の演技からアングルを決めたり、第3村のミニチュア模型を作ったりと
およそアニメの作り方とは思えない特殊な方法を取りました。

ラストシーンでシンジたちは電車を降りて宇部新川駅のホームから
庵野監督の地元である山口県宇部市に駆け出していきます。
私がエヴァを知り、庵野監督を認識したその最初期の記憶が
NHK番組「課外授業 ようこそ先輩」をリアルタイムで見た小学生の時ですが
番組内で母校である山口県宇部市の小学校を訪れるのですが、
「いつかここに自分の描く舞台は帰ってくるんじゃないの」というセリフが
まさかここにきて実現するとは思いもよりませんでした。

ただ、このラストは単に舞台の問題だけではなく、あらゆる暗喩が散りばめられています。
電車内の描写はシリーズでもたびたび登場し、
主に内面(精神)世界を描く時に多用されてきましたが、
これはカオル君がいた月にある無数に連なる棺桶のように
終わりのないループを続ける「エヴァンゲリオン」という名の環状線からの下車を意味します。

駅と言えば今回の映画のメインの舞台となった第3村ですが、
設定上はQのニアサードインパクトで破壊された第3新東京市(箱根)の周辺に作られたのですが、
そのモデルは浜松市の天竜二俣駅とされます。

しかし、ラストで駅を出たシンジたちの眼下に広がるのは
二次元(アニメ)の第3村ではなく三次元(実写)の宇部市です。
実は劇中でエヴァの舞台だった第3新東京市(箱根湯本駅)から
第3村(天竜二俣駅)を経て、庵野監督の故郷(宇部新川駅)まで
しっかりとレールが敷かれていたんですね。
これは庵野監督とそれを追ってきたファンにとって
エヴァからの卒業であり、アニメからの卒業を意味するのではないかと思っています。
公開が決まっている「シン・ウルトラマン」も「シン・仮面ライダー」も実写映画です。
シン・ゴジラ同様にCGアニメーションを多用することは間違いないでしょう。
庵野監督は宇部市での幼少時代に影響を受けた作品群に敬意を払いつつも
シン・シリーズとして自分自身の解釈でリビルドを進めていくのではないでしょうか。

3DCGの普及

アニメ監督であった庵野秀明からアニメという三文字が消えていくように
かねてから実写映画とアニメ映画の境界は
CG技術の発展により曖昧になりつつある現状ではありますが、
もう一人のポスト宮崎候補である
細田守監督の最新作「竜とそばかすの姫」では
現実世界の手描きアニメーションと対比して
インターネットの仮想世界(U)の描写では3DCGを駆使し、
宮崎駿の実子である宮崎吾郎監督の最新作「アーヤと魔女」は、
ジブリ初のフル3DCG作品に挑戦しています。

もちろん庵野監督には「ナウシカ2」もやってほしいし、
しばらくしたらまたアニメの世界に帰ってきてもらいたいですが、
日本の手描きアニメーションが
ディズニーのように全てCGに置き換わることはないとは思いますが、
長らく日本のアニメ界を支配していた手描きスタイルは
いよいよ次のステージに入ったと言えるのではないでしょうか?
その背景にはVR文化の発達があるのだと思います。

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